【本の感想】上田早夕里 『妖怪探偵・百目 1 朱塗の街』

上田早夕里 『妖怪探偵・百目 1 朱塗の街』 光文社光文社文庫)、2014年発行を読みました。

書下ろし二編と「小説宝石」掲載の四編の計六編の短編連作です。

全三作の一作目です。

☆☆☆

SFと妖怪を融合した不思議な小説です。近未来SFの用語やガジェットが次々と出てきます。妖怪も当たり前のように出てきます。しかし違和感はありません。この違和感の無い設定、妖怪と人間の違い、妖怪が語る人間考察が面白いです。

続・真朱の街と真朱の街

第一話の題名は「続・真朱の街」です。続のない「真朱の街」は『魚舟・獣舟』に収録されています。妖怪である牛鬼の視点が「続・真朱の街」、人間である探偵助手からの視点が「真朱の街」です。

何か特別なものを補完しているわけではありません。本当のオリジナル一作目を読みたいのであれば「真朱の街」を読めばいいと思います。「続・真朱の街」は「真朱の街」に比べるとコミカルなところがあるので「真朱の街」よりも楽しめます。

近未来SFの人間と妖怪

クラークの三法則に「十分に発達した科学技術は、魔法と見分けがつかない」とあります。これを本作に置き換えたような話が20ページから21ページに書かれています。

たしかに「遠目」や「聴き耳」という妖怪の持つ特殊能力は科学技術で解決しています。これに再生医療に遺伝子工学が加わり、人が人でなくなるのであれば妖怪と同じ異形です。

そのようなセリフを鵺というキメラのような妖怪が言っているところにまた面白みがあります。お前が言うな感が笑いを誘います。妖怪から見た人間の話は、どこか急所を突くようなことを言われているような感じがします。

本作の妖怪はファンタジックで可愛い妖怪はいません。人間考察は水木しげるの世界に通じるものがあるように感じてなりません。

妖怪と人間のかかわり

妖怪の身勝手さに振り回される話もあれば、人間の身勝手さに振り回される話もあります。そのギャップが面白みです。本の題名は妖怪探偵ですが、探偵として何か大きなことを成し遂げているわけでありません。探偵にしても助手にしてもそのギャップに振り回される狂言回しです。

妖怪と人間それぞれに行動原理があります。妖怪は裏表がありません。人間は裏表があります。それが笑いを誘うこともあれば、怒りや悲しみを誘うこともあります。

「続・真朱の街」では笑いが、「神無しの社」では妖怪の勝手さが、「皓歯」ではお互いのなんともやり切れない感じがあります。

そして「炎風」というヒューマノイドがキーとなる話は、裏表の違いが大きな違いとして出ています。妖怪も人間も勝手ですが、人間の裏表のあるところが悪い意味で強調されているためです。

「炎風」での妖怪は勝手ですが、裏表のないまっすぐなところがあります。主人公サイドの人間はともかく、敵方はそうでないところが明白な言動をします。それがまた嫌な言動です。

真に恐ろしいのはどちらかと考えると、なんとも言えない気持ちになります。

さいごに

「続・真朱の街」から派生した作品です。しかし、最初のインパクトはあれど超えるところはありません。シリーズ一作目のため、本作自体が大きな前振り、舞台説明になっているからでしょうか。

そのように感じたためか、つまらないわけではありませんが、期待する面白さではなかったです。肩透かしをくらったような感じです。とはいえ、近未来で技術を身に着けた人間に対する妖怪のコメントや、妖怪と人間の違い、舞台設定など興味深いところは多いです。特にヒューマノイドと妖怪の組み合わせた「炎風」は本作の中では一番良かったです。

私の期待値が高すぎだったかなと思っています。

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