【本の感想】殊能将之 『黒い仏』

殊能将之『黒い仏』 講談社講談社文庫)、2004年発行を読みました。

『黒い仏』は、『美濃牛』に続く探偵石動シリーズの第二作目です。

☆☆☆

人を食ったようなミステリとホラーとSFが融合したようなふざけた話です。そのふざけ具合が面白いです。

真面目にミステリーを楽しもうとすると憤懣ものですが、その拗らせたところに面白みがあります。

探偵石動儀作は相変わらず面白いです。探偵として見事な道化役を演じます。

ミステリとホラーとSFの融合

すぐに死者が出て、探偵は事件を依頼されて現場行く真っ当なミステリーのはずが、途中から思わぬ展開になります。それはホラーでありSFです。このわけの分からないところが面白いです。

最初はオチも含めて笑ってしまいますが、改めて読み直すと、さりげなくわかるようになっているのが憎いところです。ちゃんとあの呪文を唱えていますし、呼びかけてもいます。

でも漢字だらけのお経は読む気になりません。現に、名探偵石動儀作も漢文に手を焼いています。そうして読み飛ばすと気が付かないのですが、ちゃんと見るとふりがながふってあり、あの呪文を唱えています。人相の説明だってそれっぽいです。あの人のあの状態なども知っていれば「SAN値が尽きたのかな?」と説明が付きますが、そういう説明はまったくはありません。

このようにクトゥルー神話を多少知っていれば楽しめる内容です。逆に知らないと超展開すぎますし、説明不足が多いため、驚くかあきれるかすると思います。

憤懣ものか拗らせた笑いを楽しむか

アントニオの一幕でもそうですし、とある引用で引き返せないことも明示されています。そこで立ち止まり、読むのを止めてしまえばいいのですが、分からなければ分からないままです。そういうことを仕掛けてくる本です。なんとも拗らせたメタ的な笑いが仕込まれているもんだと感心します。

ライトにミステリを楽しみ、ライトにクトゥルー神話を知っていれば笑えます。特に名探偵石動儀作待望のあのシーンの途中で、突如始まる敵役たちの会話と探偵の自己満足っぷりは、結末も含めて探偵ものの大きな皮肉になっているようにも感じます。

なぜならば、解決したようで何も解決していないからです。しかも本人は全く気付いていません。それどころか自分の名推理を、事件の舞台で、関係者一同の前で語ることに興奮し満足しています。さらに間抜けなのが、名探偵の名推理に犯人側が寄り添ってくれるところです。

実に素晴らしい狂言回しです。探偵もののミステリーとして真面目に読む内容ではありません。だからこそ、この拗らせた感じがたまらなく面白いです。

さいごに

ライトに拗らせた人向けのお話です。いくつかのお約束を踏まえたうえでライトに描き、笑いを誘います。ザ・エンタメ小説です。

そこにあるのはミステリーのお約束と探偵の狂言回し、クトゥルー神話からホラーを除いた香りです。クトゥルー神話関連は、分かってさえいればさりげないネタに、にやにやしてしまいます。

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